熱解析ができない環境での簡易的な放熱評価法

―現場で“感覚”に頼らないためのチェックポイント―

はじめに

プリント基板の設計において、「熱解析をしたいけれどツールがない」「シミュレーション環境を整えるコストが高い」という悩みは少なくありません。
特に中小規模の設計・製造現場では、実機評価や経験値に頼った放熱判断が主流になりがちです。

しかし、定量的な“簡易放熱評価”を行うことで、過剰設計や熱不良のリスクを減らすことが可能です。
本記事では、CAE環境がなくても実践できる放熱評価の考え方と手法を紹介します。


1. 放熱評価の基本指標

まず、簡易評価の前に把握しておくべき3つの物理量があります。

指標単位意味
熱抵抗(Rθ)℃/W熱の流れにくさを表す。値が小さいほど放熱しやすい。
熱伝導率(λ)W/m·K材料そのものの熱の伝わりやすさ。
温度上昇(ΔT)実測や推定で求める温度上昇量。

これらをもとに「どこがボトルネックになっているか」を推定していきます。


2. 熱解析なしでできる放熱性能の見積もり

(1)電力損失からの発熱量を概算する

発熱源(ICやパワー素子)の消費電力P(W)を把握し、単純に

発熱量 Q ≒ 消費電力 P
とします。

例)IC1個あたり2W発熱 → 5個で10Wの発熱。


(2)部品表面温度の実測

実際に製品を稼働させ、赤外線温度計サーモグラフィで表面温度を測定します。
このとき、周囲温度との差(ΔT)を取ることで放熱効率を比較可能です。

例)周囲温度25℃、部品表面温度70℃ → ΔT=45℃
同条件で基板構造を変えた際にΔTが下がれば、放熱効果があると判断できます。


(3)銅面積・スルーホール密度での比較

以下の要素を定量的に比較するだけでも有効です。

項目評価方法放熱への影響
銅箔面積CADデータ上での面積比面積が広いほど熱拡散◎
スルーホール数熱拡散パスの確保多いほど上下層へ熱伝導◎
絶縁層厚みメーカー仕様表で確認厚いほど熱抵抗が増大△
ベース材質FR-4 / アルミ / 銅ベース熱伝導率が高いほど◎

これらを表でまとめると、定性的な比較が定量的評価に近づきます。


3. Excelでできる簡易モデル化(例)

例えば次の式で、基板の温度上昇を見積もる簡易モデルを作成できます。

ΔT = Q × Rθ_total

Rθ_total は基板の構造で以下のように近似します:

Rθ_total ≒ t / (λ × A)
(t:厚み[m]、λ:熱伝導率[W/m·K]、A:銅面積[m²])

Excelで以下のような計算をすれば十分比較可能です。

材質λ(W/m·K)t(mm)A(cm²)ΔT(10W換算)
FR-40.31.625約53℃
アルミ2001.625約0.08℃
3851.625約0.04℃

もちろん、これは理論値ですが「材料と面積でこれだけ差が出る」という目安になります。


4. 実機での簡易放熱テスト手法

テスト方法準備判断基準
サーモグラフィ比較2種基板を並列動作温度分布の均一化を確認
赤外線温度計部品ごとΔTが10℃以上なら対策検討
熱電対測定局所箇所熱源と放熱パスの温度差確認
ファン有無比較冷却風導入前後ΔT差5℃以上なら風路効果あり

5. 放熱改善の優先順位(現場ベース)

  1. 銅箔面積を増やす(特にGND面)
  2. スルーホールで熱を下層へ逃がす
  3. アルミ・銅ベース基板を採用する
  4. 放熱パッド・サーマルビアの追加
  5. 放熱グリスやヒートシンクで外部放熱

まとめ

熱解析ツールがなくても、

  • 電力損失の把握
  • 温度測定(ΔT比較)
  • 銅面積・材質・構造の見える化
    といった手軽な定量判断で十分に放熱性能を評価できます。

重要なのは、「感覚」ではなく数値で比較できる仕組みを持つこと。
こうした小さな工夫の積み重ねが、最終的な品質と信頼性を大きく左右します。